ネギの東西対決

「やっぱり青なんだ!」

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広島に来たばかりの時、ふらりと入ったお蕎麦屋さんでつぶやいた一言です。不思議そうに首を傾げる店員さんを尻目に考えていました。
全国的に有名なラーメンチェーンの社長に尋ねことがあります。
「青ネギと白ネギはどちらが人気あるんですか?」
コロナ以前から、仕切りがあり個々の空間で食べるその店は、ラーメンを注文する時に、麺の硬さだけでなく、ネギを青か白か選べるようになっていました。 「それは地域によるんだよ。西日本は青ネギを好む一方、東日本は白ネギを好むよ」
まさにその通りで、私の出身地、群馬など関東では白ネギが蕎麦やうどんなどの薬味につく。西日本はその反対で、以前の赴任先だった福岡など九州は薬味には青ネギ。白ネギが出てきたことは1度もありませんでした。
「広島でも色鮮やかな青ネギが主流なんだ。お好み焼きにも惜しげもなくのっているし。」

「広島のバランス力」

あのつぶやきから7年。最近気がついたことがあります。広島では意外と青ねぎ白ネギ、どちらも大切にしているような気がしてならないのです。
例えば、福岡では圧倒的に青ネギ需要が高く、スーパーなど店頭でも白ネギの陣地は小さい。博多万能ねぎという福岡のブランドネギに始まり、青ネギがともかく目立つ。青対白の比率は8対2に届けばいいくらい。白ネギが置いてない店もあるくらいです。
でも広島はどうだろう。ざっと周辺のスーパーを見てみると、6対4、または5対5の半々。どちらもいい勝負。とにかくバランスが良いことが特徴的です。
広島で有名なのは広島市西区観音地区で栽培されている観音ねぎ。九条ネギの流れをもつ、柔らかく風味の良いネギ。太田川の肥沃な三角州の砂地に恵まれた所で育った青ネギです。
また、スーパーで良く見かけるのはヒバゴンネギ。目がぎょろっとしたキャラクターがパッケージに印刷されているのが印象的。庄原市西城町のシャキシャキした食感の青ネギです。
さらに先日見つけ感動したのは、東広島市の脇農園の白ネギです。
甘みが強く、繊維がきめ細かくしっかりとした味わいで、ネギの奥深さがある。トロトロで甘みたっぷり。間違いなくこだわりの美味しさを追求して丁寧に栽培されていることがわかります。
調べてみると、広島県は4、5年ほど前から、水田からの転作で白ネギの生産に力を入れていることが分かりました。なるほど!広島はやはり青ネギも白ネギもバランスよく作られているのだ。

「青白どちら?」

薬効が強いのは白、栄養価が高いのは青。ネギの白の部分と青の部分とは栄養成分が異なっています。
漢方で葱白(そうはく)といわれるのは白い部分で、体を温めて発汗作用があり風邪などのひき始めに特にいいと言われている。田舎育ちの私は子供の頃、風邪を引いた時はいつもガーゼで包んだ焼いたネギをのどに巻いて寝ていました。祖母や母はネギの香りは鼻詰まりを緩和しのどの痛みを和らげるからと言い、ネギ特有の香りに包まれながら寝ていたことが忘れられない。香りと辛味のもとであるアリシンという成分です。
一方、青い部分はビタミンCやカロテン、カルシウムも含まれており緑黄色野菜。つまり青ネギも白ネギもどちらも良く、バランスよく両方取りたい成分なのです。
お好み焼きには青ネギが映えるし、牡蠣の土手鍋には白ネギが合う。広島には馴染んだ美味しさの中に気がつかない素晴らしさが溶け込んでいます。愛すべき地産地消。広島がますます好きになりました。

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岸 真弓 プロフィール
群馬県出身。
学習院大学文学部卒業。
気象予報士資格を取得後、日本気象協会九州支社にて、気象解説・予測業務につく。気象キャスターとして、テレビやラジオの天気予報を担当(RKB毎日放送、NHK北九州)。
その後独立し、2014年から広島へ。RCC中国放送で、毎日テレビ・ラジオの天気予報を担当。「広島県みんなで減災推進大使」に任命されている。その他、活動は講演やイベントなど多岐にわたる。
野菜ソムリエプロや薬膳師、食育インストラクターなどの資格も持ち、暦や季節に合わせた旬な食材で料理を作るのが特技。
福岡時代は、県の農産物をPRする福岡県うまかもん大使を務め、精力的に活動していた。